それにつけてもM-1 2022

元芸人のたわごと

3回戦 黒帯

この2人は自己プロデュースが上手い。大阪吉本のイケイケのグループに属せず、黒帯軍団と呼ばれる自分たちの仲のいい芸人をyoutubeで紹介したり、お笑いファンが喜ぶようなテーマでトークをしたりしている。しかもこのテーマというのがお笑いファンだけでなく芸人もとても興味があり、それをどう一般の人たちに話すのか非常に興味をそそられるものなのだ。youtubeを己の砦にしてどんどんテリトリーを広げていっている気がする。そして自分たちの面白い部分をじわじわと浸透させてファンを増やしている。

その活動がM-1の予選においてプラスに働いているのは間違いない。

 

ネタは10秒以内にジャニーズのグループのメンバーを全員言うというゲーム性のあるもの。言えなかったら罰ゲームとして学生時代の恥ずかしい称号を持つ人の名前を発表する。ほぼ言えないということはないゲームなのだがこの簡単さがオチの馬鹿馬鹿しさを助長している。このコンプラ規制ガチガチの時代に個人情報を多くの人の前で晒すというボケ。結局オチで名前をいうことになるのだが、もう罰ゲームというよりその名前を発表したいがためにやっている感じ。ただの学生時代の友人のエピソードトークを言うだけなのだが、そこに言うまでのルールを設けることで面白さが増す構造。エピソードが最初にきて名前が後というのがいい。まさにハンターハンターでいうところの制約と誓約。この人たちのネタはフリが長くひとボケまでに時間がかかるという特徴があるがそれを活かしきっているネタだと思う。

 

面白いかと言われれば面白い。

馬鹿馬鹿しさに特化したネタなだけあってしっくりきたときの笑いの破壊力は凄まじい。でも正直言うとこのネタに限ったことだが、なんでここまでウケているのかは理解しきれていない。途中でゲームを諦めて(やめて)名前を発表するまで待っている感じはめちゃくちゃ面白い。

 

思うのは、この2人は独特の華があるということ。衣装も漫才師然としているわけではなく、アパレルの店員のような格好。黒帯のyoutubeを見ていれば分かるが2人はファッションには結構気を遣っている様子。右の人は舞台上なのにリングをはめていたりアクセサリーも普通につけている。本来芸人が舞台に立つ上でそれはしないほうがいいような風潮があるが私は全然いいと思う。あくまで街中のオシャレの延長。その気の抜き方が2人のしゃべりの適当さにつながっているし、その雰囲気こそが馬鹿馬鹿しいネタに華を持たせている。観客が見る気になるというのは実は一番大事な要素だ。ただこれに嫌悪感を感じる人も中にはいるとは思う。仲の良い元芸人の先輩はこの2人はおじさんなのにチャラチャラした格好で頑張っている感がちょっとキツいと言っていた。そう感じる人もいるだろう。

 

ポイズンガールバンドの2人の持つ「とっつきづらい華やかさ」に通ずるものをこの2人は持っている。ポイズンの2人は人物そのものの持つカッコよさが華になっていたが、黒帯の2人は巧みな自己プロデュースにより同じような華を獲得している。

 

M-1という大会に愛されたコンビだろう。

 

やっぱお笑い楽しいな

 

 

 

3回戦 キングブルブリン

ボケの人の雰囲気と喋り方がめっちゃくちゃいい。ちょっと弱々しそうで、でも理屈っぽいことも言いそうな風貌。このネタにすごいマッチしている。初めて見たコンビだったけど好きになった。

 

とにかく「小林はこおへんて」「こおへんの?!」が気持ち良すぎる。

1発目のこのボケのためにほぼ同じやり取りを続けて5人目か6人目くらいでこのボケツッコミ。芋づる式になっているからタメた分全てがおじゃんになるバカバカしさがすごい。破壊力も納得。

すごい簡単な仕組みのように感じるけど意外と思いつかなそうというか、簡単そうすぎるから手を出さないというか、、とにかく虚をつかれた。中には途中でオチに気づく人もいるかもしれないが、飄々と会話を続けられて、割と聞き逃さないようにしないとという意識をさせられるので聞き入ってしまう。だから急にくる「こおへんて」がすんごい拍子抜けして面白く感じる。

「こおへんて」のボケの人の言い方がまた絶妙。物凄くアホっぽく言う。それまでに比べてちょっと早めに言ってるというか、放り投げてる感じがいい。テクニックが光る。コジコジが次郎君にゆっくりボケてる感じの一連のやりとりというか。そんな雰囲気がある。

 

ちょいちょいツッコミの人の例えとかツッコミで笑いをとろうとしている部分がくどく感じる時がある。分かる。このネタの内容だけだと弱いなと感じてしまうのは芸人なら多くが思うだろう。それだけではウケが足りないと。通過には値しないだろうと。だからツッコミでも笑いとれるところは隙間なくとっていこうという感じだろう。

 

だが時としてそれはボケの話のペースより前のめりに映りかねない。ツッコミが笑いをとりにいっている感が出すぎるとせっかくの面白いボケを味わいきるところまでいかずに、ボケがフリの色を出してしまう。リメンバーGとか結構うまいこと言っているようだけど個人的にはもう少し勢いを抑えたツッコミの方がいいような気はした。なんか用意してきてます感が強い。

ただそれでは3分の中でとれる笑いの箇所を失うことになるかもしれない。そこが難しい。

 

でも2人の雰囲気はコンビとして合っているしきっと来年はもっと上にもいきそうな気がする。

 

やっぱお笑い楽しいな

 

 

3回戦 ツートライブ

面白い。自分がやっていることが格好いいと思い込んでイキっているやつとそいつの話をダルそうに聞くという2人の会話の漫才。この人たちはずっとこの体でネタを作ってやり続けていると思う。数年前のM-1の予選のネタがめちゃくちゃ面白かったのを今でも覚えている。確かことあるごとにある単語や行動をイキッた名称に変えて話していくみたいなネタだった。

 

最初のツッコミの「何してんねんお前」に対してボケの方も嬉しそうに「何してん俺〜」と食い気味に返すところからもう面白い。自分のしでかした愚かなこともカッコいいことと捉えて話すスタンスが完全に痛いやつだしそれが分かりやすい。恐らくこのスタイルを貫くのに彼の見た目がかなりいい印象を与えていると思う。まさに痛さが分かりやすい見た目。うってつけの顔と髪型。ちょっと巻き舌入っている喋り方。声色。いちいち鍋を「男の料理、鍋」というところなど細部にまでイキリが際立っていて面白い。ここはツッコミがないのもいい。

 

そしてツッコミの人のちょうどいい相槌と話の聞き方。この人相当うまい。漫才師としての立ち居振る舞いが洗練されている。洗練され過ぎていてもはやそれで面白いまである。洗練され過ぎてもはやうるさい反応している時もある。でもうまい。特に正面を向いていてボケを聞いた後の振り向き方。グインと首を相方の方に瞬時に向けて、あたかも本当に今聞いて驚いているかのようにつっこむ。首を曲げるスピード感。リアル過ぎてすごい。この達者さにもう笑ってしまう。感情の乗せ方もうまく、何チェアンド何ニーナなん?の超バカバカしいボケに対しては、もう笑いながら「ドルチェアンド・・!」とこいつバカすぎるだろの反応を見せながらつっこむ。さらにすごいのが、その後にちょっと間を開けて「ドルチェアンドガッバーナ、ほんでスーツで、、」のツッコミ。ドルチェアンドガッバーナを語尾にいくにつれ弱くしていってパッと切り替えて声量を上げてほんでスーツで行ったん?!と繋げる。この技術には惚れ惚れする。体にツッコミとしての話し方が馴染みきっている人のそれである。ちょいちょい「炎上の話だけして」と釘を刺すのもボケの人のイキリのくどさを強調しているし、話を本筋に戻す効果も効いている。

過剰に例えツッコミをしなくても、ボケも入った変則ツッコミをしなくても、純粋に話をちゃんと聞いているだけでここまで面白くボケを引き立て、笑いを増幅させることができるのだ。これこそがツッコミだ。ツッコミはこれでいいのだ。

 

この3分間のクオリティと同じクオリティの4分ネタがあるのならば決勝に行ってもおかしくないと思う。

 

やっぱお笑い楽しいな

 

 

3回戦 牛ぺぺ

数年前の予選動画でネタを観てから好きになったコンビ。2人から面白い雰囲気がずっと漂っていてどんなネタするのか毎回楽しみ。

 

マッチングアプリで知り合った女性との話のネタ。限りなく純粋な会話のみで成立させている。

 

面白かった。1回目より2回、3回観た時の方が特に面白く感じた。

 

特筆すべきは、2人にははっきりとしたボケとツッコミという役割がないところ。左の人がエピソードを話し、その後に右の人がもし女性の方がこんな考えだったら、、というような会話。笑いをとる部分は2人ではなく、会話に出てくる第三者の意見の部分。だが、もしこんな女性だったらという設定を作って漫才コントをするわけではなく、あくまで2人の会話の延長で、そんな展開おかしいやろ、てことはこんなことなんちゃうかと話の中に出てくる第三者ナチュラルにボケさせている。

そこには2人の思想は介入せず、ただ単純にその第三者がこんなことを言う面白い奴という、悪い言い方をすれば自分たちの手を汚さず遠隔操作でボケている感じ。だから話自体が自然だし、その中で繰り出される「今までで1番面白かった番組がvs嵐」「動物のハプニング映像で爆笑する」とかのボケが嫌味なく入ってきて素直に面白いと感じる。あくまで第三者の意見ですという体が抜群に効果を発揮している。観客が2人と同じ立場で話を聞けるのでネタの面白い部分にスムーズに入っていきやすい。

 

これはそれを笑いとして昇華させられる2人のリアクションや想像する様がバカバカしいから成立している。ネタの構造的に後半部分は自虐になっているから観ている方は思わず笑ってしまう。押し付けられている笑いではなくみんなで共有する笑い。

 

彼らは1回戦の動画でも第三者がこんなことを言っていて人生2回目に見える、というところで笑いをとっていた。この2人は自分たちの面白いと思うことをストレートに自分達で表現しない。2004年のポイズンガールバンドに対する大竹まことの「2人の存在を消そうとすればするほど2人の存在が浮き上がってくる」というコメントがぴったりと当てはまるような気がする。

 

芸人として、これで笑わせる、俺はこんな面白いことを思いつく、というエゴや承認欲求みたいなものを限りなく削ぎ落とし、純粋な立ち話という原始的でありながらもはや新しいスタイルを確立しているように思う。

 

とても狡猾なやり方で頭のキレるスタイル。個人的にとても好きだ。追加合格を願う。

 

やっぱお笑い楽しいな

3回戦 さや香

すごい面白かった。さや香はなんとなく私の中でパッとしないような印象があるけど、いつもしっかり面白いネタをやっている感じがする。

 

漫才の型としてはオーソドックスなしゃべくり漫才だが漫才師としての2人の技量が高く、達者さがいやらしくない。話がスッと入ってくる。声も聞こえやすいし言っていることも分かりやすい。

 

なによりボケの着眼点が素晴らしい。よくある『本当に美味しい〇〇を食べたことないからだ』という言い回しの逆をいくボケ。なんかありそうでなかったきっかけ。ツッコミの「それってそっち側からのあんの?」の一言が物凄く気持ちいい。これが決まってしまえばもう後は全部面白い。これが思いついただけでもうさや香のほぼ勝ちだと思う。

 

その後もまずいウニ一辺倒ではなく、本当に近い店に行ったことがないから、本当のキスをしたことがないからと、このきっかけを他の話題で展開させて話を広げていく。観ている人を全く飽きさせないネタ運び。家出たら家の扉が店にちょっと入ってるとかシュールなボケも面白かった。キスの部分はちょっと生々しかったのか客が若干引いてるように感じたが普通に笑えた。

 

M-1で勝ちやすいとされるような独自のフォーマットがある漫才ではないが、この着眼点とそれを上手に料理しやりこなしたこのネタは純粋に漫才として素晴らしい出来だと思う。

 

やっぱお笑い楽しいな

M-1 2022年

今年も3回戦の動画がYouTubeにあがる季節がやってきた。毎年のささやかな楽しみになっている。

 

東京の3回戦はこれからで大阪の方がもうあがっているので、久しぶりに動画を観た感想を書いていこうと思う。

 

感想はほぼ個人的主観がメインなので、あまり論理的なことや最近のお笑いシーンの背景などを加えた客観的なものは書けないと思います。

準々決勝 金属バット

飽きたのか、鈍ったのか、それとも嫉妬か、いろんな感情が入り混ざるが、、面白いかと言われれば面白くはなかった。彼らに求める面白さのハードルが無意識的に上がってしまったのかもしれない。

 

 

ネタの構造がとても簡単になった。同じフォーマットの会話の流れを数回、繰り返しているだけ。最後のオチ前だけつまらない話をしてしっかり落としてはいるがその前まではやっつけ仕事にも似た自己模倣に見えてしまう。要は完全なる嘘の話、特に最近はファンタジー寄りの話をしてその中でリアルなボケを入れて笑わせる。「非現実の中の現実」で笑いをとってる。人魚と出会ったという荒唐無稽な話をしている中で喫煙所の話をしたり人魚の声がベジータだったり。完全なファンタジーの中にリアリズムを混ぜ、状況を想像させてそのギャップで笑わせている。この手法ならこの2人じゃなくてもいい。いや、この2人はずっとこれをやっていたのだが、、、なんかファンタジー要素が強くなりすぎて彼らを初めて見たときに受けた新しさや衝撃がなくなってしまったように思う。彼らにはリアルとファンタジーちょうど半分半分の話の中でリアルなボケをしていて欲しかった。見た中では金の鉱脈のネタがそれをしていて信じられない面白さと異彩を放っていた。

 

シンプルに言うと「寄ってしまった」。大衆に合わせすぎている。分かりやすく寄ったなと分かるところは、「大阪の南港ってとこ〜」のところだ。以前ならば「南港に〜」ですませたはずだ。そしていってもツッコミに大阪のかい、くらい言わせてすませたはずだ。大阪の会場で準々決勝受けてるわけだし観客も大阪の人ばかりなんだからなおさら説明する必要はない。それくらいのスタンスでいたはずだ。それがボケが自ら大阪の〜って説明してしまっている。これはもう伝えやすくしようという「寄せ」以外のなにものでもない。無意識だとしたらそれは余計悲しい。

彼らの面白さの特徴はあの見た目で変に知的であるところでもあった。

インゴットに精錬する技術、とかそれに対するコンゴと同じ悩みや、とか、数学のパラドックスや、数学で考える競馬必勝法とか、合法的に住民税?を払わなくて済む方法やその詳細、バックギャモン、ルール分からんゲームや、とか、文盲なんかい、とか。物凄いワクワクさせてくれるワードセンスに魅力があった。悪を感じる知的さがあった。今までの漫才には出てこないワードがたくさんあった。今回はそれがない。

 

あとボケツッコミのリズムが完全に一定になってしまった。緩急がなくなった。ところどころ彼らなりの血が通っているやりとりはあるが根っこが機械的になってしまった。全てがやっつけに感じるほどに。テンションも無駄に高くなっているし。完全に良さが薄れた。

 

それすらも分かっていて、合わせればええんやろそれで稼げるんや気楽な稼業でっしゃろホンマに。なんて気持ちでやっているのかもしれない。そこまで達観して全てをバカにしているような気はする。そういう2人でもある。

 

でも、シンプルにネタは面白くなくなったと思う。それはリアルから遠ざかったから。

 

 

やっぱお笑いやりたいな