それにつけてもM-1 2022

元芸人のたわごと

3回戦 アイロンヘッド

東京3回戦で1番ダントツで面白かった。そして本当にすごいなこの人たちはと思った。動画で観てて観客のどどどっていう笑い声が聞こえてくるって本当にすごい。

 

まず何と言っても脱力具合が完璧。もう完璧。人を笑わせるのにギリギリの脱力感。これ以上脱力したらやる気がないと受け取られる可能性があり嫌味になる。もう少しやる気があるとネタ自体のテンションに合わないからこんなに笑えなくなる。絶妙な脱力感。2006年の変ホ長調にカウス師匠は太極拳のような漫才やねと評したがいやいや、これこそ太極拳の漫才だろう。闘う気はあるけど殺気はないというか見せない。ギリギリのところでの脱力。脱力前提での緊張と緩和。となると緩和のレベルがめちゃくちゃ高いということになる。そしてまさに「申し訳ねぇっ」の一言はそれに値するものすごいレベルのアホさと緩さ。高次元の脱力漫才。これこそが脱力漫才。そんじょそこらのあざとい脱力なんかじゃない。多分この人たち本当に焦ったことないんじゃないだろうか。

 

ネタの仕組みは天丼というか同じ類のボケを繰り返してとる笑い。コインを投げての発言に2つの選択肢があるからどっちの結果が出てどうなるのかが楽しめる。

 

まず1発目の破壊的な面白さがあるから2発目までは申し訳ねぇでいける。というか聞きたい。次からが芸人としては考えるところだけど表が出るということになってその通りの態度になってくのが面白い。コインの表裏に自分の身を委ねすぎだし従いすぎだろっていうバカバカしさがある。それに加えてコインは表なのにどんどん情けない感じになっていくのが笑えるところ。その上で逃げないでここにおる!ってのがまたアホらしくて面白い!どんどん面白い状況になっていく見事なネタ運び。

そしてグゥの一言でまた爆笑。爆笑してる中でボケがツッコミを軽く押してるのがまた爆笑を産むスパイスになる。ものすごい笑いが起きてる中でやるああいう動きってホントバカバカしく見える。本人たちの声が笑い声でかき消されてる気持ちよさとこれもっと面白いだろっていう気持ちになるんだろうな本人たちは。そんでその手前の酒を飲むか飲まないかではコインを投げるのをスルーしているのがめちゃくちゃいい!!そこは自分の欲望に従うんだっていう愚かさみたいな人間味も出てツッコミもしないでスルーしてるのがリズムも良いしバカバカしい。この人たちは本当こういう雰囲気でネタするのがうまいなぁと感じる。

 

そしてなにより、ツッコミのナポリさんの受けが素晴らしい。困ってる様がリアル。でもそれもギリギリで困りすぎるとツッコミづらくなるし、最大限の笑いにできる株価ギリギリのところで売りに出してる感じ。冷静でいながら困っていて少しだけボケのその面白さを気持ちの中でいじってホント1割だけ乗っかってる感じが面白い。

 

ネタのボケ自体は割と古典的で簡単だけどお得意の脱力とキャラと素晴らしい構成で誰もが笑えるすごいネタだった。こんなの観ちゃったら付け焼き刃の緩い漫才とかこねくり回した価値観の笑いとか大声だしてパワーで乗り切るネタなんて恥ずかしくて観てられない。

 

これが準決勝いけないなんて素晴らしい才能を埋もれさすだけだ。3回戦の動画配信の功罪だろう。まぁその動画で感想言ってるんだから私もそんなこと言えないけれど。

 

やっぱお笑いやりたいな